

ひゃくばん:ご主人様は、1971(昭和46)年に川崎市多摩区に引っ越すことになり。以来、私はご主人様と一緒に神奈川トヨタの登戸店を幾度となく訪ねることになる。私の後輩が誕生したといっては、私と私の後輩(新型クラウン)を並べてはお披露目会をしたりという具合にだ…。もちろん、私(初代クラウン)の方が人気を集めていたと思うよ。
2014(平成26)年春、ご主人様はトヨタの方から“神奈川トヨタ75周年記念事業”の一環として、私をショールームに展示したい、との相談を受け快く承諾した。この時、口数の少ないご主人様がぽつりとトヨタの方につぶやいたんだ。

「神宮外苑で行われる、トヨタ博物館主催のクラシックカー・フェスティバルにクラウンと参加したいんです。」
ひゃくばん:実は、前年にこのフェスティバルにエントリーを試みたものの、実現できずにいたからだ。…少し考えていたトヨタの方が、何かを決心したようにこう応えた。
「ご意向に沿うよう、私が担当させていただきます。」
ひゃくばん:神奈川トヨタ75周年記念事業の展示会は、トレッサ横浜店を皮切りに、マイクス本社店・希望ヶ丘店・辻堂店・中田店と続き、ご主人様は時折、私の様子を見に来ては、私の姿を眺めて目を細めていた。
2014(平成26)年秋。

「どうぞ、どうぞ、乗ってみてください。」
ひゃくばん:小雨降る神宮外苑の人だかりの中心には、満面に笑みを浮かべたご主人様と、誇らしげな私の姿があった。
トヨタ博物館の館長が、私のエンジンルームをのぞきこみ
「タイヤハウスにスリットがありますね。これは初代クラウンの初期ロットにのみにあるスリットです。このクルマは正真正銘、初代も初代のクラウンです。現役で走ってるなんて奇跡です。」
と感激してくれたんだ。
ひゃくばん:この年、ご主人様は年末あたりから体調を崩してしまい、この頃から私の行く末を心配し、神奈川トヨタにクルマを託したいと考えはじめていたようだ。
時を同じくして、トヨタ自動車では“トヨタ店チャンネル創立70周年”と“クラウン生誕60周年”を記念した“Discover CROWN Spirit Project”が始動しはじめていた。6月末のキックオフに続き、7月中旬にはトヨタ自動車によるご主人様へのインタビューが行われたんだ。
8月1日、ご主人様は
「転売はしない事」
「今後も一人でも多くの人に“ひゃくばん”を見てもらうべく努めること」
の2つを条件に、私を神奈川トヨタに託したんだ。
8月6日、ご主人様は天国に旅立った。
ひゃくばん:実はトヨタの担当者の方も、お父さんが“初代クラウン”に乗っていたらしく、ご主人様をお父さんの面影に重ねて、いろいろと段取りをつけていたらしい、ご主人様もまた、トヨタの担当者をもう一人の息子と思っていたのかも知れない。